日本では、古くから儚く移り行く四季の変化を繊細に感じ取り、その季節にふさわしい柄を装いに取り入れてきました。これは洋服には見られない和装独特の文化であり、着物の醍醐味のひとつでもあります。
そのため、それぞれの季節を象徴する柄を知ることで着物ならではの奥深さを改めて感じることができ、より和装が楽しくなるはず!今回は、夏の着物の柄について詳しくご紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
和装は季節を先取りするのがオシャレ!
着物や帯は、少し季節を先取りした柄を取り入れるのがオシャレとされています。
理由には諸説ありますが、その主なものの一つが“本物の自然の美しさには叶わない”という自然に対する畏怖やリスペクト。花鳥風月の四季折々の美しさがもっとも増す時期に、着物の方が目立つのはナンセンスであるという日本人ならではの自然感から生まれた習慣のようです。
そのため、モチーフとなる草花の見頃よりも、だいたい約1ヶ月~1ヶ月半ほど前に着るのがよいとされています。
夏におすすめの柄を月別にチェック!
ここからは、夏におすすめの柄を厳選してご紹介。6月・7月・8月に月別にピックアップしました!
6月におすすめの柄
<6月におすすめの主な柄>
雨 ※取り扱い商品はこちら |
海・波 ※取り扱い商品はこちら |
紫陽花(あじさい) |
鉄線(てっせん) |
百合(ゆり) |
薊(あざみ) ※取り扱い商品はこちら |
桔梗(ききょう) |
杜若(かきつばた) |
紫陽花や百合、薊、鉄線といった夏の花のほか、梅雨を連想させる雨や、涼し気な雰囲気を演出できる海・波をモチーフにした柄も、6月におすすめ。
桔梗は秋の七草に数えられることから夏のイメージはあまりないかもしれませんが、実は6月頃~10月頃まで長く楽しめる花で、最盛期は7月・8月頃。そのため、秋だけでなく初夏の装いにも取り入れられています。
杜若は、写実的かつ単独で描かれている場合は5月~6月初旬に着るのがよいとされていますが、流水と組み合わせてデザインされているものは夏着物や浴衣にもよく見られます。
7月におすすめの柄
露芝(つゆしば) |
金魚 |
千鳥(ちどり) |
朝顔 |
向日葵(ひまわり) |
海賦文(かいぶもん) ※取り扱い商品はこちら |
鬼灯(ほおずき) |
雪輪(ゆきわ) |
7月はもっとも夏らしい装いが楽しめる時季。
露芝は、細い三日月形の芝草に露が玉状に宿った様子を描いたもので、7月の終わりから8月にかけてよく着用される柄。デザイン性の強いものであれば、通年着れる場合もあります。
雪輪は冬のモチーフであるため秋冬の着物に描かれることが多い柄ですが、涼やかにみえることから夏の着物や帯にも古くから使われています。
海賦文は風景模様の一つで、波、海松、磯松、海鳥など海辺の様子を象徴的に表現したもの。
そのほか、金魚や千鳥、朝顔、向日葵、鬼灯、波、海なども、7月の装いにぴったりのモチーフです。
8月におすすめの柄・モチーフ
海・波 ※取り扱い商品はこちら |
桔梗 |
花火 |
芙蓉(ふよう) |
すすき |
秋草 |
蜻蛉(とんぼ) |
撫子(なでしこ) |
8月になると、夏から秋へと移ろいを感じさせるラインナップが目立ってきます。
海や波、花火など、夏らしいモチーフがある一方、芙蓉やすすき、蜻蛉など、秋の風物詩も登場。
秋草とは、桔梗や萩、撫子、女郎花(おみなえし)など、秋の野原に自生する草花を組み合わせて文様化したもので、夏後半から初秋にかけて着映えする柄のひとつです。
シーズンフリーで年中楽しめる柄とは?
夏らしさを象徴する柄がある一方、季節問わず通年着ることができる柄もあります。ロングシーズン着回せるので使い勝手がよく、着物初心者の方にもおすすめです。
ここでは主なものを3つご紹介します。
有職文様
有職文様は、平安時代に中国から伝来し、以降貴族の間で調度品や建築、牛車、装束などに用いられてきた伝統的な柄の総称。優美で格調高く、晴れ着の柄としてもよく使われています。
<主な有職文様>
七宝(しっぽう) ※取り扱い商品はこちら |
花菱(はなびし) |
向い蝶(むかいちょう) |
立涌(たてわく) ※取り扱い商品はこちら |
亀甲(きっこう) |
襷(たすき) |
吉祥文様
吉祥とは、仏教用語の一つで、めでたいことが起こる前兆、またはめでたいことを指す言葉。その意味通り、古くから縁起が良いとされる柄の総称を吉祥文様と呼んでいます。
祝い事の着物に用いられることも多く、通年着ることができる柄がほとんどです。
<主な吉祥文様>
扇(おうぎ) |
宝尽くし |
兎(うさぎ) |
鴛鴦(えんおう / おしどり) |
松竹梅 ※取り扱い商品はこちら |
薬玉(くすだま) |
パターン化された模様な幾何学模様
リアルに季節感を表現した写実的な柄ではなく、パターン化されたものや幾何学的な模様は、基本的に通年楽しむことができます。
例えば、枝などが描かれていない花びらのみの桜は春以外でもOKですし、千鳥がパターン化した千鳥格子は夏以外でも着用可能です。
また、縞や格子、水玉模様なども、他に季節感を表す柄が一緒に描かれていなければシーズンフリーで着回せます。
小物使いで装いに夏を呼び込む
着物や帯の柄だけでなく、小物選びも季節感を表現する重要なポイント。
例えば、帯留めは透け感のあるガラス製のものを選んだり、紫陽花や千鳥、向日葵など夏らしいモチーフのものを取り入れたりすると、季節を味方につけたこなれ感のあるコーディネートになります。
また、半衿や帯揚げも、夏着物や夏帯の軽やかな雰囲気になじみやすいよう、絽やレースといった素材のものがおすすめ。色も寒色系や淡い色などを選ぶと、より涼やかな雰囲気に。
帯締めは基本的に通年同じものでもOKですが、夏向けのレース素材のものを選ぶと、帯周りに抜け感を演出できます。
ルールよりも季節を意識しながら夏着物を楽しもう!
季節に即した柄を選ぶという着物ルールは、一見難しいように感じますが、もともとはルールではなく日本人ならではの自然観から生まれたオシャレの嗜み。
ルールに沿って柄選びをするのではなく、自然の移ろいを感じながら柔軟にその時季にあわせた柄選びをすることこそが、本来の伝統的な着物の楽しみ方といえます。
また、時代によって“夏らしさ”の表現も次第に変化していくもの。伝統的な感性は受け継ぎながらも、今の時代にあった令和の夏スタイルをぜひ楽しんでみてください。
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▼プロフィール
執筆者:さない ちえ
カジュアル着物愛好家 &フリーランスライター。着物ムック本の編集・ライターやリサイクル着物店の店長などを経験。「着物をもっとオシャレにもっとカジュアルに楽しもう」をテーマに、普段着としての着物を楽しむアイディアや日常をSNS等で発信する傍ら、WEB媒体を中心に着物・日本文化関連のコンテンツ制作も行っています。
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